雨がしとしとと屋根を濡らしていた。バスの窓から覗く視界は、霧で冷たく濁っていた。

私達以外他に客の見つからない、広々としたバスに揺られ私達は山を降りていった。先程から、会話も一切ない。

少女はまだ寝たり無かったのか、私の隣でうつらうつらと首を漕いでいた。見るからに胡散臭そうな男と、年頃の少女の組み合わせ。
いったい何者だろうと、時々運転席の方から不審がる冷たい視線が注がれているのを私は感じて、それを避けるように慌てて目を閉じた。

私達は唯の臆病なのです――。

葛折りの坂を何度か下り、その度に掛かる揺れに眠気を誘われ、何時しか私は本当に眠りに落ちていた。

夢の中ではまたあの苦い日々の事を疑似体験し、私はいよいよ、自分自身に愛想を尽かしてしまっていた。

いつもの様にうだつの上がらない声で「お疲れ様でした」と声を掛け、己で己をつまはじく様、情けなく肩を縮め、職場を後にした。

些細な声。
些細な音。
駐輪場で響く同僚達の笑い声さえもが、私の耳に疎ましく響いてきていたのだ。そして私はこうも思う。

(嗚呼、悪いのは私自身なのだ)と――。

すっかり陽が暮れ、寂しさと忙しさ、それから私にはどうあがいても所詮手には入らない、遠い暖かさの混じる町中を私は歩いて行く。駅前の電光掲示板は何やら喧しいミュージックビデオを垂れ流し続けているが。

孤独な私の耳に、その言葉は届かない。彼らの歌詞には、意味など無い。人は永遠に我が儘だ。

我が儘が寄り集まって、より我が儘になる。

我が儘が町を築く

私は窮屈さに息苦しさを感じ、逃げ場を求めるかの様、視線をそして彷徨わす。無機質な看板に無機質な電飾が灯っている。硝子の向こうに人が居る。喋っている。会話。会話。会話。会話。会話。会話。会話。会話。会話。会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話会話――

笑顔。

嗚呼!!

そして心が、悲鳴を上げる。
本当は声を上げて叫んでしまいたいのだ。私は寂しいのだと!

だが、卑しいの本性がそれを抑圧する。

この沸き出でる衝動を奥へ奥へと、押しとどめ誤魔化そうとする。

こんな所で突然泣き叫ぶなど、唯の傍迷惑なキチガイなのだと。

私は“常識”という何とも煩わしい、如何にもそれらしい都合のよい屁理屈を用いて己の感情を抑圧する。
嘘を付く。自分を裏切る。

顔色を変えず。この醜いプライドを消して悟られぬ様慌てて改札口へと飛び込む。そして何も考えぬ、つまらない一個の歯車となる事を望み、瞳を閉じる。

嗚呼――。
嗚呼――――。
嗚呼――――――――……








「……死ねたらいいのに」


それすら怖くて出来ない。
私は本当に、実にくだらないつまらない男なのだ。価値を見いだすその価値すら無い。

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