弐
冷え始めてきた肩に身を震わせながら、私はまだ、外で煙草を吹かしていた。
流石にここは田舎だ。表のあぜ道から聞こえる蛙達の合唱が、ひっきりなしに私の耳を騒がす。人は一人も通らない。唯、雨音と虫の鳴き声が延々と静けさを醸し出すのみ。私はそこで黙々と煙草を吸い続けた。
父の事を思った。
私の両親は、ごくごく普通の、ありふれた穏やかな人柄で愛されている――まぁ、息子の私から傍目に見ても、そこそこ幸せと思える、よい家庭を築いていた。
余り怒られた記憶がないのは、気質が穏やかな故か。
はたまた争い事を好まぬ所為だったのであろうか。
私は手の掛からぬ子供であったらしい。
聞き分けのよい子と言うのが、後々自らの首を締め付ける事を私は当時、知る由も無かった。
これは今にして思えば両親の失敗であり、また私の過失でも有るが今更それを起こる気力など湧かなかった。誰にも気づかれず、私は見えない失敗作だったのだ。
最早、諦めるしか他に方法がない。
煙草を二本吸い尽くしたところで、いよいよ侘びしさを感じ私は小屋の中へと戻った。
バス停の中は黴臭く、そこで寝ている少女は座敷牢の、やつれた亡霊の様にすら思える。
錆びたボンカレーの広告が、彼女の壁際に掛けられていた。隣にオロナミンCも同様並んでいる。
「……何か、食べなきゃなぁ」
自然、言葉が喉から零れた。胃が乾いた虚しい空腹を告げた。
私はポケットの中身をまた探った。
残り、あと三千二百円。
いよいよ財布の中身も厳しくなってきた。
……いっそ働こうか。
いや、でもどうやって?
僕を受け入れてくれる場所など、もうこの世の何処にも無い。
「ははは……」
乾いた笑い声が、喉を突いた。
遠くからバスが近付いてきた物音が聞こえてきた。
取り敢えず――僕は彼女を起こし、ここから連れ出さねばと思った。
ここは死ぬには寂しい。
さみしい。
あまりにも――寂し過ぎる。
そして寒いだろう。
「ねぇ……君、起きて」
たどたどしく僕は声を掛け、彼女の細い肩を揺すった。
寝起きの彼女の吐息は、冷たかった。
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