恵に憑いたもの


「ねぇ守」
放課後。
今日も恵のところに行こうと思っていた僕に、姉さんが声をかけてきた。
「今日もお見舞い行くわよね?」
「うん、まあ」
「私も行っていい?」
「べつにいいけど。どうしたの?」
「ん、まあ一応最初に出来た女友達だしね」
そういえば姉さんが姿を現してから最初に会った女の子って恵か。
「……うん、じゃあ一緒に行こうか」
僕は鞄を持つと、姉さんと二人で教室を出た。



「ここだよ」
僕達は恵の家の前に立っていた。
「んー」
姉さんはなにやら思案顔で恵の家を見ている。
その視線が、知らないはずの恵の部屋に向いているのは僕の気のせいだろうか。
「じゃあ入るからね」
「待った」
インターホンを押そうとした僕の手を、姉さんが掴む。
「ふーむ」
「ど、どうしたの」
「……ちょっと遅かったみたい」
「へ……?」
瞬間、パリーンというガラスかなにかが割れる音がする。
「ちょっとお邪魔しますね」
姉さんはそう言うと、恵の家に入っていった。
「あ、ちょっと姉さん、って鍵どうやって開け……」
しかし今はそんなことどうでも良かった。
「ああもう!」
僕も姉さんを走って追いかける。
さっきの音は多分二階からだ。
そして恵の部屋は二階。
僕の胸の中は不安で一杯になる。
家の中に入り、自分でも驚くような速さで階段を上る。
その間にももう一度、さっきと同じ音がした。
「恵……恵!」
二階に着く。
恵の部屋の扉が開いていた。
「恵……姉さん?」
中に二人の姿がない。
「……あっ」
見ると窓が……割れているが窓が開いている。
僕はそこに駆け寄り、外を見た。
そして恵と姉さんはそこにいた。
「飛んでるよ、おい」
ついツッコミを入れてみたくなったが、そんな呑気なこと言ってる場合じゃなかった。
恵の身体は、なにか煙のようなものに包まれ浮いている。
それは大きな……とにかく大きな鳥のようだった。
怪鳥と言って間違いはないだろう。
対するように、その怪鳥を前にしている姉さんは、背中からいかにも天使様な翼を生やしている。
「姉さん!」
「守、ちょっと待ってなさい。いまこれを片すから」
「片すって……恵はいったいどうしたっていうんだよ!?」
「またこの前のように悪いのに憑かれたみたいね。気を失ってるわ」
「また……って、恵は助かるの?」
「助かるかどうかじゃなく、助けるのよ」
姉さんは目の前の怪鳥から視線を外さずに、そう言った。
「ちょっと手荒に行くわよ、この化物め」
その言葉の直後、かろうじて目で終えるスピードで怪鳥に近づく姉さん。
そして射程にとらえると、思い切り拳を振り上げる。
「はぁっ!」
風を切る鋭い音とともに怪鳥の羽の一部が飛散する。
どうやら本当に煙状のなにからしい。
「たぁっ!」
そんなことを考えていると、姉さんはさらに攻撃を続ける。
今度は思い切り蹴りあげた。
「ああ姉さん……翼が生えても格好が制服だから……」
下着が見えちゃうかも……まあそんなの見れるほどゆっくりと動いてるわけじゃないけど。
「やっ、ほっ、たぁっ!」
次々と繰り出される攻撃に、怪鳥の身体は原型を留めていなかった。
「やっぱり姉さん強……あれ?」
姉さんの攻撃、効いてるのかな?
ふと、そんな疑問が浮かんだ。
なぜなら、原型を留めていない怪鳥ではあるが、先ほどから反撃らしい反撃はなにもしていない。
「もしかして……」
「まったく、効きやしないわね」
姉さんも気づいていたみたいだ。
「もう、いい加減に!」
姉さんはそれでも怪鳥へ攻撃を仕掛けていく。
「なんだ……なんなんだあれ」
煙状だからダメージがないのか?
ならどうやって勝つ?
弱点は?
「なにか、なにかないのかよ」
空中では姉さんが拳を振り上げている。
怪鳥はそれを避けずに羽で受けた。
今度は踵落とし。
それでも怪鳥は避けたりしない。
「姉さん! 頭を狙ってみて!」
「頭……わかったわ」
言った通りに姉さんは頭を狙う。
すると怪鳥は少し動くとさっきと同じく翼で受けた。
「次は尻尾だよ!」
「尻尾……って回り込まないといけないじゃない」
姉さんは渋々尻尾のほうに向かって回りこんだ。
すると怪鳥はいままで見せたことのない速さで回転する。
「ちょっと……回りこんだっていうのに」
姉さんが愚痴をこぼす。
でも僕にはわかった。
これは多分、正解だ。
「そいつ尻尾が弱点だよ姉さん……多分だけど!」
「多分て……でも尻尾?」
姉さんは怪訝そうに怪鳥の尻尾を睨み付ける。
「まあ守が言うのなら……やってみるけど」
姉さんは再びすごいスピードで怪鳥の後ろへと回りこんだ。




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