天使様


人にはきっと、乗り越えないといけない試練がある。
程度に違いはあれど、それはその人にとっては苦しいものであるはずだ。
試練なのだから。
だからきっとこれは試練なのだろう。
場所が夕焼けに染まる土手ってのが雰囲気出ないけど。
なにも……帰り道じゃなくてもね。



「助けて……守」
目の前で恵が涙を流していた。
その恵を、まるで蔑むように見ているのは……なんだ、あれは。
「この娘、力を扱いきれんのに私を呼ぶなど……握りつぶしてやろうか」
ああそうか、これは恵が呼び出した天使様か。
……天使?
まるで怪物じゃないか。
鋭い爪を持つ大きな手、そしてその手に似合った大きな身体。
きつく冷たい眼差し。
すべてが人知を越えている。
「これが……天使かよ」
力を越えた天使を呼び出したものには制裁が下る。
聞いたことはあった。
「授業で間違えたなんて話……聞いたことないぞ」
当然だ。
あってはならないことだから。
「邪魔をするでないぞ、小僧」
その怪物は、いまにも恵を潰そうとしていた。
はぁ……やっぱり、僕の罪は重いらしい。
「恵……今、助けるよ」
眼前の怪物が手に力を込めた瞬間。
とどろくような悲鳴がこだました。
その悲鳴の主は……
「な、なにをした小僧!」
怪物だ。
「な、なんで私の腕が……ぐああぁ」
ドサリと落ちた怪物の腕から恵が解放される。
「ま、守!」
走ってきた恵を背後に導くと、僕は目を瞑って言う。
「はぁ、これだけは嫌だったのにさ……頼むから変なことしないでね」
「あら」
スッと、光が辺りを照らした。
「私がいつ変なことをしたのかしら?」
言いながら光の中から現れたのは……僕の天使。
いや、天使ではないけれど。
「いつもしてたろ」
「ふふ、ま、後でにしましょ」
「そうだね……姉さん」
僕は少し前に歩き、天使様……いや、姉さんの隣に立つ。
久しぶりに見た、姉さんの長い黒髪。
その髪が風になびいたの見た次の瞬間、目の前から怪物は消えていた。
「相変わらず強いね、姉さんは」
「ふふ、可愛い守を護るためだもの」
と、僕の背中に誰かの手が触れた。
「守、一体なにを……それにその人は」
そういえば見られたんだっけ……恵に説明するのは少し大変そうだな……。
まぶしい夕日を見ながら、僕はため息をついた。




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