「どうしたんだい、須藤さんとこの」

 と、爽やかな笑顔のフクトメ駐在。浅黒い肌に、まっ白い歯が浮き上がる。ラテン系の映画俳優みたいだ。
 ぼくはそんな彼に、

「駐在さん、あの、女の子見ませんでした?」

 と、ひいはあふうふう息を継ぎながら尋ねる。

「女の子ね。待ってね、今とてつもなく思い出してみよう」
 と、顎に手を当てて唸るフクトメ駐在。美味しい物を食べた時のような、えもいわれぬ彼の「う~ん」は、どうも思考中には見えないのが悩み所だ。

「ちなみに駐在さん、背中の籠、何ですか」

「……あコレ? 最近、私有地に無断で立ち入っては山菜を盗んで行く奴がいてね。被害をこれ以上は増やさせまいと、本官がこうして先手を打っているんだ」

「……この山、持ち主誰でしたっけ」

「ウシロさんだね」

「私有地に無断で入っちゃいけないんですよね」

「けしからんよなあ。山菜泥棒め」

「……なんだろ、この違和感」

 「そうだ、泥棒で思い出した。さっき通ったね、女の子。金髪の細っこい子だった。この辺じゃ珍しい感じの」

 そうしてフクトメ駐在は、坂の向こうを指さした。
 ここから、道はゆるやかなカーブを描き出す。育つに任せた木々の葉が、ガードレールに覆いかぶさっている(そして『私有地』の立て札にも)。
 ぼくは心中でガッツポーズした。
やはりぼくの見立ては正かった。やはり彼女はサボってた。
 ところが急転直下。やはり、ぼくの見立てが中途半端だった事が発覚する。


「若い男と一緒だったねぇ」

「……え男ッ?」

 フクトメ駐在はしみじみと語尾を伸ばし、ぼくは驚いて語尾を叩き落とす。
 男。
 連れの男。
 ……行動を共にする男?
 驚愕、そしてぼくは一瞬固まる。
 そして考えてみる。
 ナンパ……いや、このあたりの男性平均年齢は50歳だし。スカウト……何の? モデルではない。開墾とか。馬鹿じゃないのかぼくは。

 そして導き出す最悪の答。
 それが唯一、手応えのある解答だった。
 援軍、協力者、宇宙人の仲間。
  腐っても侵略者。彼女は、職務を果たそうとしてるのかもしれない。
 冷や汗が背中から吹き出た。

「やばい」

「なにが」

「地球です!」

 暢気に突っ立つフクトメ駐在を避けて、ぼくは駆け出した。
 滅亡へのカウントダウンが始まっていたとは。言い回しが古いが、この際こだわってられない。とにかくトルルラを止める。野球部の根性を見せるしかない。体力と練習量には全く自信ないけど。
 とか焦っていたら、なぜかフクトメ駐在が追ってくる。

「待つんだ須藤君! 本官は別に、地球の生態系をどうこうしたいわけではなく! 山菜を! わらびを、ぜんまいを守りたいだけなんだ!」

「なな何でついてくるんですか!」

「本官と君との間に、大いなる誤解を感じるんだ!」

「確かに誤解は有りますけども!」

 誤解してるのはそっちです、と口から出かかり、しかし説明しようがない事に気付き口を閉じたぼく。
 雪だるま式に、物事がこじれてゆく。もう駄目な気がしてきた。

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