おいら宇宙のお掃除婦③
その一・ぼくの周りで面倒を起こさない
その二・とくに、侵略行為は慎む。
その三・家主である須藤一家、とくにぼくには偉そうにしない
その四・その他地球人も見下さない
その五・家賃分はしっかり家事をしてもらう
その六・その他もろもろ、ぼくの指示をちゃんと聞く
その七・上記のことを遵守した場合に限り、身の安全を保障することとする
以上、ぼくたちが交わした取り決め。
安全保障以外は権利もなにもなく、課せられたのは義務ばかり、という完全無欠の不平等条約。
なのだが、トルルラは、それはそれはありがたそうに平伏するのだった。
なんでこんな残念な娘が、侵略部隊の尖兵なのだろう?
「テンオーさんに迷惑かけません。危険行動しません。地球人と私は対等です。私が宇宙人であることも秘密にします。お金もないので、ちゃんと家庭の仕事をします」
その侵略者は、試験直前の学生よろしく、不平等条約の留意点を繰り返しそらんじている。
「……あの、トルルラさん」
「はい、なんでしょう、テンオー様?」
ええーっ。
なんだこの豹変ぶり。
パイナップル入り酢豚以来の戸惑いを隠せないぼく。
「そ、そんなに豹変しなくても。自然体でいいっすよ」
さっきの語勢もどこへやら、情けないぐらいヘラヘラしているぼく。ああ、やっぱりこんなものだ、ぼくは。自分の一貫性の無さに、げんなりする。
「いいえ、約束を交わして立場を明確にした以上、生活にもわかりやすく、メリハリをつけておかなければなりません」
トルルラはしゃなりと立ち上がった。ぼくも鈍くさく、ついてゆく。
「でも、急にしとやかーになられても、その……ドギマギするよ」
外観は美少女なわけだから、という一文を敢えて省いた。男としての矜持だ。
それを受けたトルルラは、短くふふっ、と笑うと、肩をすくめた。
愚痴っぽい高慢ちきなあの宇宙人は、どこへ消えたのか。
或いは、こうゆう種族なのかもしれない。主従関係を重んじる。そうか、メイド長、って言ってたし。そうだな、そうなんだよ、きっと。
ぼくはまた悪い癖で、深く考えるのをやめた。
それが落とし穴だったのに。
トルルラに、各部屋の間取りや風呂・便所の使用法、祖父&兄貴の生態とあしらい方を説明するべく、彼女を伴って一階へ。
階段を降り切ったところで、兄貴&コヤマさんに鉢合わせした。
「お、さっきのお客さん。契約成立ですか?」
人に難題押し付けといて、悪びれる様子もない。
「はい、今日からここでお仕えさせていただきます、トルルラと申します。よろしくお願いいたします」
トルルラ、慇懃にお辞儀。金色の髪の毛が優雅に遊ぶ。完璧な所作だ。
兄はキョトン、と
「お仕え?」
「はい」
トルルラは華やかな笑顔で、快活に答えた。背景にも花々のリングをしょっているようだ。
「わたくし先日、こちらのテンオーさんに山中で暴行を受けまして。本日は『責任を取ってもらいに』伺いましたところ、ねじふせられ、押し倒され、私の体の二本の細長い部分のあいだに固い棒を挿入されたうえで『お前の体に舌鼓をうってやる』と脅され、今後私の権利の一切をテンオー様に譲渡し、服従する生の奴隷としてお仕えさせて頂くことになりました」
背景に、毒花が咲いた。
「お、天、テンオー、おまおま、えええ」
兄絶句。
「……そこに直りなさい、テンオーくん。斬りおとします」
コヤマさん抜刀。
「ち、ちがう、誤解だよ!」
ぼくは、もうてんやわんや。
「そうですよ、お兄様、お姉さま! ……合意の上……ですから……」
トルルラは変わらぬ笑みをたたえ、しかし目にはうるうると涙を光らせる。
こ、この野郎。
「お前はこんなけなげな娘ををををを!!!」
兄貴がコヤマさんから日本刀をひったくり、思いきり振りかぶる。し、死ぬ。その瞬間、トルルラの黒いほほ笑み。
しかし幸運なことに、刃先が天井に食い込み、兄貴の腕も中空で止まる。
「なんだ! 腕が動かない! まさか、金縛り的な!」
「先輩、上! 上!」
「上に何がいるんだ! わかったおばあちゃんだな! おばあちゃんが切っ先つかんでんだろ!」
二人のコント癖が発動している間に、ぼくは逃げ出すのであった。
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