夏-2 忙しい あぁ忙しい 忙しい
その次の日から、俺達は今まで以上に生徒会の活動に時間を割かなければならなかった。
放課後、生徒会室での準備は勿論、練習用に体育館を確保をするためや、生徒会役員と担当教員に配る劇原稿のコピーのために、職員室に何度も通った。
帰宅してからは、各自で原稿の確認や小道具作りなど、仕事に追われる毎日。
まさに猫の手も借りたいくらいだ。今日はフジケン先輩が用事だとかですぐ帰っていったし。
しかしそんな中で、
『ξ;⊿;)ξ「ブーン! ブーン!」』
「……これは泣けるな」
「悲しいにゃぁ……」
会長と由香利先輩は特に仕事もせず、友達から借りたらしいDVDをパソコンで見ていた。
『( ^ω^)「バイバ
プツッ。電源を切る。静寂。
「「あぁぁぁぁ!!!!」」
二人は整った顔を歪め、ジトッとした目で俺を睨みつけた。
「何するんだ、黎!!」
「ひどいよ、これは許されにゃいよ!?」
「……あの会長、由香利先輩、胸に手を当てて自分に悪いところはなかったか振り返ってみてください」
「胸とか言うのはセクハラだよな」
「私が胸ないからってそんなこと言うにゃんて……ひどい」
もう駄目だこの人たち。
「ねー、美咲ちゃん、次は何みよっか?」
俺は、
二人に関わるのをやめ、劇の演出を考える作業に没頭した。
「そうだな、黎の部屋で見つけた、」
このタイミングでスポットライトを会長に集めて、ここでエンディングを流す。
「見つけた?」
5人じゃ足りないかもな……麻紀や竜太郎に協力
「黎の秘蔵DVD、『隣のお姉ちゃんが優しく教えて……」
「会長、ちょっと落ち着きましょうか」
いやいやいや、ありえない、ありえない。まずそれは見つからないように箪笥の三番目の底に入れてたはずだ。
「箪笥の三番目から見つけたんだよね」
「ゆかりんは昔から物を探すのが上手かったよな」
「いや、なんでさらっと部屋に入ったこと暴露してるんですか」
油断も隙もプライバシーもあったもんじゃない。
「えへへ」
「にゃーにゃー」
褒めてないから顔を赤らめないでください。
「まぁそんなことはさておきだな」
「いや、おいていい話じゃないですよ?」
「このDVD、買うか?」
不幸中の幸いというか奈穂は今先生に途中経過を報告しているため、今生徒会室にはいない。
それなら、事は簡単だ。
「……今日の帰りにクレープ、で」
「私もだよ!」
「わかってます」
できるだけ内密に、穏便にすますのが一番だ。
「交渉成立だな、受け取れ」
会長から受け取ろうとしたちょうどその時、
「ただいま帰りましたー!!」
後ろのドアが勢いよく開き、最悪の事態が舞い込んできた。
俺は会長からそれを引ったくり、必死にYシャツの中に隠す。
「奈穂、お帰り」
「お帰りー」
会長と由香利先輩は吹き出しそうになるのを必死に堪えている。
「楽しそうですね、何かあったんですか?」
「いや何もないよ、なぁ、ゆかりん」
「そうだねっ、誰も何も隠してにゃいよね」
奈穂は状況が把握できないようでポカンとしていた。
「黎君、どうしたの?」
「いや、何でもない」
というか絶対に言えない。
「酷いなぁ、私も知りたいよ」
奈穂は、自分だけ仲間はずれにされていると思っているらしく、少し拗ねているようだ。
そんな所も可愛いんだけど、今は言ってる場合じゃない。
「そうそう、奈穂、黎が帰りにクレープ奢ってくれるらしいぞ」
「本当ですか!? あ、でも黎君に悪いし…」
「ううん、大丈夫だよ。 最近毎日仕事で疲れてるだろうし、今日はもう切り上げて、今から行かない?」
俺は必死に冷静を繕って、口早に言う。
なんとしても早くここから出なきゃいけない。奈穂に気づかれる前に。
「うーん……そうだね、今日はフジケン先輩もいないから作業効率も悪いだろうし、そうしよっか!!」
よし、よし、よし!! 上手くいった。 あとは隙を見てこれを鞄に入れれば、
「あれ、黎、腹の中に何か隠してないか?」
会長ぉぉぉぉぉぉ!! 声にならない叫びを上げ、絶望する。
「え、どこかな?」
奈穂がそういって俺に近づく。
一歩、二歩、そして三歩で、
「ちょ、ちょっとトイレいってきます!!」
俺は鞄を引ったくって生徒会室を後にした。
「しかし人の金で食べるクレープは美味しいな」
「ウルトラメガジャンボビッグテラベリースペシャルレジェンドパフェクレープの大盛りくださいにゃ!!」
「あいよ、4800円になります!!」
「なん……だと……」
「黎君、大丈夫?」
「災難続きだよ……」
「ごめんね、ごめんね!!」
「奈穂が謝ることじゃないから大丈夫だよ」
「黎、こっちこい」
「どうしました?」
「ほら、黎、あーん」
「会長、恥ずかしいです」
「まぁいいじゃないか、ほらほら」
「…あーん」
貰ったクレープの甘さがやけに目に染みた。
次→/一覧