夏-2 劇の準備
「あー…ごほん、よし、今日の話し合いに移るぞ」
まだ少し赤い顔で会長が言う。
「…あの、そろそろ機嫌治してくれませんか?」
「…ふんっ」
由香利先輩は、結局三十分以上フジケン先輩と二人きりで放置されたことにかなりご立腹のようで、
機嫌を直すどころかさっきからろくに目も合わせてくれない。
会長は特にそれを気にするわけでもなく、しかしどこか残念そうに由香利先輩を一瞥したあと、俺の方に向き直り、
「ところで、台本の方は出来たのか?」
「まぁ…だいたいっていったところですかね」
劇の原稿なんて、元々の内容をベースに少し加えるだけだから、そんなに手間どらない。あとは推敲すればOK、と言ったところまで完成していた。
「え、そうなの?黎君の書いたやつ見たいな」
奈穂が目を輝かせる。そういえば奈穂は土曜日に手伝ってくれたんだし、見せるべきだよな。
俺は念のためにコピーしてきた原稿を鞄から取り出して奈穂に手渡した。
「はい、まだ推敲してないから文章変なとこあるかもだけど」
「ちょうどいい、奈穂は原稿読んで酷評してやれ」
「え、あの、酷評限定ですか…?」
困ったような仕種を見せる奈穂は正直小動物みたいで可愛い。
「まぁ、自分でも自信はないからね」
「遠慮せずに思ったことは指摘してやれよ。 あ、フジケンはこいつらの子守と、生徒会便りのレイアウト作成を頼む、よし、じゃぁゆかりんと私はちょっと多目的教室に用があるから」
「にゃ、にゃぁ!? 美咲ちゃん、私別にようなんて……」
「いいからいくぞ、ゆ、か、り、ん」
「…はい」
立ち上がりとぼとぼと会長についていく由香利先輩の背中はやけに小さかった。
普段から騒がしい二人の先輩がでていった後の生徒会室は、奈穂が原稿を読んでいることもあって、やけに静かだった。
こんなのも悪くないけど。
しかし、何もしないのも暇なので、集中している奈穂でも見ていることにしようか。
…結局、ゆっくりページに目を通しながらいろんな表情を見せる奈穂は見ていて飽きることがなく、読み終えるまでずっとそれを眺めていた。
「黎君」
俺は唐突に名前を呼ばれてびっくりした。
「おもしろかったよ!!」
ニコリと微笑みながら言う。
俺はその笑顔を見ることが出来ただけで書いてよかった、と心から思った。
「特に織姫が天の川からはい出てくる最初のシーンは最高だね!!」
「あ、それなんだけど演出どうしようか?作る?」
ちゃんと小道具、大道具を用意するのか、しないのか。これからの活動スケジュールを立てるためにまず決めなきゃいけないことだ。
「うーん…ないよりはあるほうがいい、よね」
「俺もそう思う、じゃぁとりあえず事務室から…」
俺達はそれから一時間、活動時間ギリギリまで話し合って、残り二週間のスケジュールを立て、必要な備品を書き出しておいた。
ある程度見通しが立った俺達の気持ちは幾分楽になってきて、奈穂も心なしかさらに元気になっていた気がする。
途中で会長と一緒に帰ってきた由香利先輩は、真っ白な灰になっていたけど。
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