夏-2 市立図書館前の二人(ニヤニヤ注意)
「じゃ、行ってきます」
山内市立図書館は、家から大体十五分の所にある。
俺は待ち合わせに遅れないように余裕を持って九時半に家を出た。
「黎、お土産よろしく」
「嫌です」
「お土産?じゃぁ、鯛焼きっ」
「あんたもか」
「お土産、へい、お土産!!」
「お土産ー、お土産ー!!」
手を振り上げながら玄関の前でお土産コールをする二人は無視して自転車に乗り込む。
「遅くならないようにねー」
「お土産忘れんなよー」
「だから買いませんって!」
ツッコミと同時に勢い良く漕ぎ出した自転車は風を切って進む。
郵便局のそばの地下道を渡り、コンビニ「七十一」のすぐそばにある横断歩道を渡ると、市立図書館に到着した。
…それにしても暑いな。まだ朝なのに。
駐輪場に自転車をとめ、携帯で時間を確認すると九時四十分。
さすがに奈穂きてないだろ…
そう思いながら入口に向かうと、
「あ…黎君」
図書館の前で一人佇む奈穂の姿。
「おはよう、奈穂。…いつからきてたの?」
「おはよ。…うーんと…三十分前?」
「なんでそんなに早く?」
「いや、待ち合わせ場所決めてなかったから…。
ここで早めに待ってたら、絶対に黎君に会えると思って」
「携帯にメールすればよかったのに」
「…黎君のアドレス、知らないもん」
少し不機嫌そうに顔を背ける奈穂。
「…そうだったな、ごめんごめん。なら、今教えとくよ」
「あ、うん、私受信するね」
赤外線通信でプロフィールを送信する。
「次、私送信ね」
「俺は受信か…」
もう一度携帯を近づける。
「ん、送信完了!!」
奈穂がビシッとこちらに敬礼。
「ん、受信完了!!」
俺も奈穂の真似をした。
「じゃぁ黎君、外は暑いし、そろそろ中に入ろうよ」
「あ、奈穂ちょっと待って」
中に入ろうとする奈穂を待たせて、近くの自販機でジュースを買い、軽く投げて渡す。
「いいの?」
奈穂はキョトンとした顔をしている。
「うん、待たせたお詫び」
「でもあれは私が勝手に来ただけだし…」
「まぁ、きにしないで。…葡萄ジュース嫌いだっけ?」
「ううん、好きだよ。じゃぁ貰うね、黎君、ありがとう」
「アハハ、どういたしまして」
奈穂がプルタブを上げ、口を付ける。
「んー、冷たくて美味しい!!」
「もう、本格的に夏になってきたよな。まだ十時なのにこんなに暑いし」
「そうだねー。あ、黎君はジュースいらないの?」
「今買うか迷ってるところ」
「なら、これ飲む?」
そういって俺の方に缶を差し出す奈穂。
俺は赤面する。
「…それは、ちょっと…」
「なんで?」
「いや…だから…これって、その間接……」
俺が言い終わらないうちに奈穂の顔も真っ赤になり、あたふたと慌てだした。
「あ、ご、ごめん、その、なんか黎君も喉渇いてるかもなのに、
その、私ばっかり飲んでて悪いなとか思っちゃって、
買わせるのもあれだし、
だから、別に他意とかなくて、ただなんとなく!!
いや、なんとなくじゃなくて、黎君だからなんだけど、
違う違う!!今のなし、
だからそのつまり、いやらしい気持ちじゃないっていうか、
あー、もう私、何言ってるんだろう!!」
慌てまくる奈穂。
言い終わってから、かなり疲れたらしく、肩を上下させている。
「…大丈夫?」
「ごめんね、黎君、あの、きにしないで、その、……」
「別に気にしてないから大丈夫だよ。…少しびっくりしたけどさ」
そして、昨日と同じ沈黙が流れる。
「あー…奈穂、そろそろ、入ろっか」
少し時間を置いて、俺は奈穂に声をかけた。
「…うん、そうだね」
奈穂もある程度落ち着きを取り戻したらしい。
そうだ、入る前に、あき缶をごみ箱に捨てとかなきゃな。
俺は、奈穂に手を差し出した。
「あ…」
奈穂が俯きながらその手を握る。
「あの…奈穂?」
「…何?」
「缶捨てとくから頂戴、って意味の手だったんだけど…」
「え、あ、ごめん、私勘違いしてっ!!」
焦って離そうとする奈穂の手を少し強く握って離さない。
「黎君?」
「あぁ、うん、手を出しててラッキーだったよ」
俺は笑いながら言う。
「…なんか照れるね」
「大丈夫。俺も照れてる」
そして、俺達は手を繋いだまま図書館の中へと入っていった。
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